過去の山行を軽く振り返る雑談記。
登山を始めて今日まで、幸い大きな怪我もなくやらせてもらっていますが、危ないシーンが全くなかったかと言われるとそうでもなく。
死ぬ思いをしたことも過去にあるので、その体験談でも書いておきます。
今回の件は、もう数年前のお話です。
自分の最初の登山と言えるのが、2009年の富士山初挑戦。そこからカウントを開始するなら、もう登山を始めて丸10年が経過するわけですが、幸いにもこれまで大きな怪我もなく楽しめてきております。ヘリを呼んだこともないし、熊にもまだ出会ったことはありません。
その年々によって登山回数のブレはありますが、今日までコンスタントに登って入るので、一応山登りを趣味と公言できるだけの経験はあるつもりです。
そんな自分の登山史において、現時点で唯一、本当に死ぬ思いをした山行があったので、その内容を記しておきます。もうあれからだいぶ経ち、笑い話として語れるくらいに月日が経過したので。
2016年7月10日 針ノ木雪渓
季節は7月の夏山登山。命からがらの経験を初めてしたのは、意外にも冬ではなく夏の出来事。
対象の山行は針ノ木岳~蓮華岳の日帰り登山。今から3年前です。
当時の記事の中では特に事故の件は触れてないはずです。
書いてもあんまり面白いものでもないし、直視したい出来事でもなかったので、当時は頭の片隅に追いやってスルーしておりました。
登山の内容は過去の記事を見てもらうとして、事の発端は針ノ木雪渓の下山時に起きました。
登りの雪渓歩きは問題なし。記事にも書いてある通り、確か雲が迫ってくるような状況というのもあったしソロ登山というのもあって、休憩少な目で快調なペースで登ってました。
崩壊が始まる雪渓も特に問題視はしてなかった。
山頂に着くのも結構早めだったと思います。針ノ木雪渓で人を追い越しながら登っていた記憶があるので。
ちなみに、この時の針ノ木岳は2回目。同じルートをその前の年にも歩いていたので、一応ルート上の勝手はわかっていました(いるつもりでした)
これがそもそも油断の元だったのかもしれないです、今思えば。
その後、予定通りに針ノ木岳に登頂し、さらに蓮華岳までも登って日帰り登山としては充実した内容。蓮華岳のコマクサと山頂直下の稜線が綺麗だったのを覚えています。
予定よりもだいぶ早め、10時半過ぎには蓮華岳から下山開始。この時間帯で下山している人はあまりいなかった気がします。
問題があったのが針ノ木雪渓の終盤当たり。雪渓の下山は「グリセード~」とか言って調子よく下りていけるけど、この時はそれが仇となった形。
サクサクテンポよく下りて行った矢先、突然足元に穴が開き、雪の下に落ちました……。
この時、わずかに覚えているのは、雪渓の中の真っ暗さと冷気による寒さ。目の前の景色が一変して暗闇の極寒に放り出されたので、最初は何が何だかわからなかったです。本当に真っ暗でした。
そして次に押し寄せたのが恐怖。もう、めちゃくちゃ怖かったです。
雪渓の下は当然激流が流れていて、キンキンに冷えた雪解け水が瞬く間に体温を奪おうとしていました。
冷気と暗闇と激流、こんなところから一刻も早く逃げたいと。
正直なところ、この時のことは詳しく覚えてはいないですが、とにかく激流に流されないように必死で堪えたのは覚えてます。下流に流されたらもう助からんだろうし。
幸いストックを持っていたので、それで踏ん張りが効いたのと、流れも確か膝下くらいまでしかなかったのでどうにか持ちこたえることができました。
雪渓の下といっても、その空間は思っていた以上に広かったです。手を伸ばしてやっと天井の雪に触れられるくらいのスペースがあったので、身体も自由に動かせました。
運が良かったのが落ちた場所。落ちた穴からだけ光が差し込む状態だったので、他に出口はなかったわけですが、その穴のすぐ近くに大きな岩がありました。落ちた時にこの岩に激突して傷は負ったのですが、幸いにもこの岩があったことでそれが足場となり、何とか上に這い上がれて一人で戻ることができました。
この戻るときもパニックで、手をかけても雪が崩れて穴が広がるだけ。周囲の脆い雪を崩して、何とか自分の体重を支えられるだけの雪の厚みを確保して這い上がった感じです。
今思えば、ザック背負ってたからそれを最悪捨てれば良かったわけですが、人間危機迫るとそこまで思考回らないですね。
あの岩がなかったら雪の天井に手が届かなかったので,かなりやばかったと思います。雪渓の下ってこんなに空洞が開いてるものなのかとも思いました。
時間にしたら1,2分のことかもしれないですが、とにかく無我夢中で雪の上に這い出して難を逃れました。
雪の上に出て真夏の日差しを浴びて、ようやく生きていることを実感。激流の轟音が立ち込める世界から一転して平和な空間に身を置き、ここで初めて全身すぶ濡れで手や足にすり傷を負っているのに気づきました。
でも、それだけで済んだのが幸い。ザックがクッションになったのか、そこらへんはよくわかりません。とりあえず骨折や捻挫もなく、その後も歩くのに支障はありませんでした。
這い出して周りを見たけど誰もいなかったので、あのまま激流に流されていたらおそらく誰にも知られずに死んでいたかもしれません。運がよかったと思う反面、周りに人がいない状況でアクシデントが起きるとかなり危険だと痛感。
この日は土曜日で針ノ木岳にもそれなりに人は入っていましたが、混んでいるのが嫌だと言って昼前に下山開始したもの、結果的には良くなかったようです。
その後もやや雪渓箇所が残っていたので、もういつ床が抜けるか気が気じゃなかったです。
ようやく安心して現実味を帯びてきたのが登山口に近い大沢小屋あたり。その辺で改めて傷のチェックや、ザックの中身が大丈夫かとか、割と冷静に戻って対処できた感じです。
いや、本当に良かったです。登りで雪渓の崩落個所を見ていたので、その片鱗はあったわけですが気にも留めていませんでした。これ以降、雪渓というのが怖くなって、少なくとも夏場に関しては雪渓ルートの選択はしてないです。今のところは。
なんにせよ、大事に至らなくて済んだのは単純に運がよかったから。反省しつつも、果たしてあれは回避策があったのかどうかも不明。雪の薄さはよく見ればわからなくもないので、もう少し注意深く下るべきだったのかもしれません。帰ってから数日はヤマレコの記録を見てましたが、幸い同じように雪渓に落ちた人はいなかったので一安心。
ちなみに、この記事を境にカメラがSonyのα6000からNikonのD5500に代わっているのは、雪渓の下に落ちた時にカメラが壊れたからです。水没して、次の日には動かなくなっていました。
でも、カメラなんかどうでもいいです。命を落とさなかったことだけで満足。
この記事で言いたいのは、夏の雪渓は本当に危険なので気を付けましょうということです。ちょうどこれからの時期ですね。
底が抜けるのもそうだし、落石も結構あるので、どうかお気を付けて。
雪がまだしっかり残っている残雪期よりも、夏場のほうが脆くて危険だと再認識した登山でした。
記憶から完全に風化する前に、こういった雑記も気が向いたら書いていこうかと思います。
コメント
みやっちさん、はじめまして!
いつも跡を追いかけるようにてブログ参考にして登っています。
こういった経験談は本当に大事です、自分も気を付けようと思います。
単独行は自由な分リスクもありますが、無理しないでくださいね。
ponyoさん、初めまして。
コメントありがとうございます。
単独行は自由が利く半面で、それなりにリスクもあるなと再認識した山行でもありました。雪渓は特にこれからの時期が怖いので、雪の上は特に気を付けたいと思います。
いつも記事を読んで参考にさせて頂いております
今回の記事はとても考えさせられ、他の登山者の読者の方々にホントに良い記事だと思います。
私も基本はソロで登っており、自分なりに事故等に気を付けながら登ってる反面、自分だけは大丈夫と思いつつ登っていました。登山を趣味にしてある人に対して事故に遭遇する割合は限りなく低いと思いますが、いつどこで遭遇するか分かりません
自分も去年、下ノ廊下ではじめて滑落者を発見してしまいました。事故の多いところですが、まさかと思いました。その後は助けを呼ぶ為に小屋まで下ノ廊下を走って小屋まで行っていました
結果的には自分より前の発見者がレスキューを呼んでいました。が、下山後、滑落者が亡くなってのを記事で見て泣いてしまいました
いつ、誰が、事故に遭遇するか分かりません。
それが、自分が他人かはありますが
こういった記事を読んでくれた方々は絶対に気をつけようと思うはずです
ありがとうございます。
長文のコメントすいません。
南 ハルオさん、こんばんは。
コメントありがとうございます。
事故を目の当たりにするといろいろと考えさせられますよね。「自分だけは大丈夫」というのはまさに心の底で思っていたことだったかもしれません。
特に今回の件は週末で人もそれなりに入っているルートで起こっただけに、まさかと思いました。本当に事故はいつどこで起こるかわかったものじゃありません。
私のケースはやや稀なのかもしれませんが、7月の夏山でもこういった1つの危険があるということの参考にしていただけたら幸いです。
みやっちさん、久しぶりにコメントさせていただきました。kubo-junと申します。
私は登山を始めてから6年くらいですが、おかげさまで命の危険を感じることは無かったものの、ヒヤリハットは数回ありました。いずれも道迷い遭難未遂ですが…。でも、実際に身近なところでは、勤め先の会社の社員が皇海山で遭難し、社員も含めての捜索の甲斐なく、翌年ようやく発見されるという悲しい出来事もありました。
やはり登山は、一歩間違えると、命に関わるものなのだということは忘れずにいなきゃと心してます。そのために、しばしば羽根田治さんの遭難シリーズなどを読んだりします。
いつもは「次の登山」の参考に楽しく拝見しているみやっちさんのブログですが、今回は改めて考えさせられました。ありがとうございました。
kubo-junさん、こんばんは。
コメントありがとうございます。
何年も山に登っていれば、やはり皆さん事故に遭遇することはあるんですね。私も周りで事故に巻き込まれた状況などを見たことがありましたが、自分はないだろうなんて思っていた部分があったのかもしれません。完全に油断ですね。。
おっしゃる通り、登山は命に関わるものだと再認識させられました。
何の気なしに3年前の事故記録を書いてみましたが、良かったかもしれません。少しでも参考になれば幸いです。
みやっちさん、
そうですか、そんな事があったのですね…
無事でけがも無くで、本当に何よりでした。
記事を読んでとても怖くなりました。
初めて行く山は、道迷いしないか、クマに会わないかとか緊張しますが、一度行っている山は道も分かっているから安心、と思ってましたが、逆に気が抜けて危ないな、と心しました。
思い出したくない思い出でしょうが、記事にして下さってありがとうございました。
これから気を引き締めて山に行きたいと思います。
ゆかぽんさん、こんばんは。
コメントありがとうございます。
3年前のことなので私の中でもすっかり過去の記憶になってますが、掘り起こしてみるとやはり危機迫るものがありました。
「大丈夫だろう」と思ってた理由の1つに、前年に同じルートを問題なく歩いてたのもあるんですよね。まさか雪渓が崩れるなんて思ってもみなかったです。
おっしゃる通り、一度歩いているルートでも気を抜かずに、安全第一で臨むべきですね。なかなか防ぎきれない事故もありますが、できる限りで気を付けたいと思います。
みやっちさん、初めまして。
つい先日、山小屋で山岳警備隊の方から山の事故のお話を聞きました。白馬大雪渓も落石や崩壊等進んでおり危険度が増していて雪渓の下に落ちてしまったら出られない、どうすることもできないのでくれぐれも注意するようにと。そんなお話を聞いたばかりでしたのでドキドキしながら読ませていただきました。それほどの怪我もなかったようで本当に胸をなでおろしました。良かったです。
その山岳警備隊の方は、登山経験が豊富な方は自分に自信を持っている方が多いと思うが、自分は(その警備隊の方)他の人より臆病であると思っている、そのためいつでも周囲のことに気を配っている、そのことが今まで事故に会わずに済んでいるのかもしれないとおっしゃっていました。
どこでどんな事故に会うかわかりません。お互いにくれぐれも気をつけて山歩きを楽しみましょうね。
シラネアオイさん、初めまして。
コメントありがとうございます。まさに本日白馬岳に行ってきたのですが、おっしゃる通り白馬大雪渓は例年にないくらい雪解けと崩落が進んでいるとの情報があったので、迷わず回避して栂池から登りました。
この件があってから雪渓に対してだいぶトラウマになりましたね…(汗)。山ではそれくらいのほうがいいのかもしれませんが。
登山に限らず慣れてきてからが危険というので、私も今一度安全を心掛けるようにします。怪我なしで登れてこその登山ですし。
貴重なコメントありがとうございました!シラネアオイさんもどうか安全第一で山登りを存分に楽しんでください。
お久しぶりです。相変わらず快足で歩き回っておられますね!
ご無事で何よりでした。8月末に針ノ木を下りたことがありますが、私も危ない場所を歩いていたかもしれません。
そう、私の経験でもトラブルはだいたい油断からです。鎖場やはしごがついたところではほとんど起きない。
私は臆病なので、小トラブルがほとんどですが…… まあ笑ってください。
数年前の秋に1,000mくらいの静岡近郊の藪山を歩いていました。途中道が少しおかしいと気づきましたが、まあ大丈夫さと下っていったら、川岸に。対岸には民家があるので、一安心と思いましたが、橋がない。川幅は5~10mくらい、深さは1mくらいにみえますが、結構流れは急。みやっちさんならどうします?
1時間ほどして民家に人が帰ってきた気配があったので、大声で叫びました。「どうやってそっちに?」 川を漕ぐしかない、と。田舎のおじさん・おばさんが見守るなか、渡渉しました。案の定流れは速く転んでずぶ濡れ。おばさんは身体を拭く古タオルをくれました。
民家がなかったら、廃屋だったらどうなったのでしょうね? 油断の怖さと田舎の人の親切さが心に沁みた一件でした。
ねもさん、お久しぶりです。
雪渓は上からではわからない部分も大きいので怖いですね。特に下りはわかりづらかったです。
川渡はなかなかの出来事でしたね。道迷いはアルプスなどの高山よりも近場の低山のほうが起きやすい気がします。しかも秋だと落ち葉などがあって道も不明瞭ですし、陽も短いですし。ご無事で何よりです。
道に迷った場合は来た道を戻るのが鉄則とは言いますが、なかなかそれを実行できない部分も大きいですね。実際、登り返すの億劫ですし……
今一度、登山の危険を再認識した出来事でした。
はじめまして。
リンクのリンクから来ました。
50代半ばです。
私は20年くらい前の3月に2人パーティーで蓮華の丸石尾根を登っている時に、前を歩いている友人がクレバス(この時期によくある雪面の裂け目)に落ちました。
2人ともハーネスをザックの中に持っていて、ザイルは私が背負っていました。
右側に太い木があったので、この木をビレイの支点にすれば◯◯君はプルージックを付けて登れるな。と思いながら彼の落ちたクレバス?の近くに近寄ったら、私も落ちました。
まだハーネスを出す前です。
開いている口からはだいぶ離れている。と思って近付いた自分の不注意に悲しくなりました。
悪戦苦闘して6mくらいの垂直のクレバス?を脱出するのに小一時間は掛かったと思います。
気を抜いた瞬間に落とし穴があることを改めて実感しました。
雪庇の踏み抜きよりは避けられる事故でした。
お互いに危ない経験を避けながらこれからも登りましょうね。
(コロナウィルス関連で体力が落ちていそう。)
Harold@861さん、こんばんは。
貴重なコメントありがとうございます。
クレバスに落下とは、危ないところでしたね。しかも3月の丸石尾根と言えば、おそらく他にパーティーもおらず、助けを呼ぼうにも呼べなかったでしょうし。
ご無事で何よりです。
私の場合は真夏の一般ルート(雪渓)でしたが、それが逆に気が緩んだのかもしれません。あまり道を外した覚えもないのですが、真夏とはいえ雪の上を歩くときは最大限の注意を払わないといけないですね。
このことがあってから、いまだに雪渓ルートの選択はしてないですが……
お互いこれからも安全第一で山を楽しんで行きましょう!おっしゃる通り、まずは体力を戻すところからですね。私もすっかり鈍っております。